2021年5月-その2:コロナ規制中に手術をする / NHSとプライベート病院
コロナ規制中に手術を受ける
5月6日に鼻炎の手術を受けた。
ということで、しばらくこのコロナ日記もブランクが空いてしまった…。
以前からアレルギー性鼻炎で季節に関係なく鼻水・涙目がひどかったので、耳鼻咽喉科の専門医 に診てもらっていたのだが、抗ヒスタミン剤入りの鼻用スプレーや錠剤を服用したり、鼻の洗浄を定期的にしてもあまり効果が表れなかったので、最後の手段として手術をすることに。
「 Septoplasty reduction turbinate」という聞いたことのない手術。
お医者さんの説明によると、鼻に通じる管と骨の部分を少し切断し、鼻の通りをよくするという手術らしい。
日本語だと、何というのか気になったので、「鼻炎の手術」でググってみた。
おそらく一番近いと思ったのは「粘膜下下鼻甲介骨切除術」だと思う。
「全身麻酔で行いますが、日帰りでできる手術ですよ。術後は8週間くらいで傷も完
治するけど、2週間もあれば普通の生活ができます。」と言われたので、結構気楽に構えて手術を受けることに決めた。
まだUKではコロナが蔓延っていて、いろんな規制がかかっているのもあって、手術までの段取りが、普段とは少し違っていた。
- 手術前に行われる問診や、案内は全て電話にて行われた。
「過去2週間以内に家族や濃厚接触者でコロナの陽性反応が出た人がいないかどか」
や、「本人にコロナの症状がないかどうか」などから始まって、過去の病気のヒスト
リーや疾患があるかなど30近くの質問をされた。
- 手術の3日前から自己隔離をする必要あり。
隔離中は家族と別の部屋で過ごすようにと指示された。
仕事も手術前から休まなくてはならなくなったので、病欠+特別休暇をいただくこ
とに。
- 手術の2日前に予め病院から送られてきたPCRのホームテストキットを使ってサンプルを取り、病院に設置されたPCRテスト投函箱へ入れて提出すること。
(これで4回目のPCRテストなので、もう慣れたもの?!)
- 手術当日、病院まで家族の人に送ってもらう場合は、車の後部座席に座り、走行中は窓をあけておくこと。(夫にタクシーの運転手になってもらおう!)
- 来院の際は、表の玄関からではなく、裏口へ来て表示されている電話番号へ電話して、人を呼ぶこと。(入院患者と外来の患者が接触しないようにするため?)
- 病院内ではマスク着用だが、自分の部屋にいる時は任意
- 病院内へは本人のみしか入れず、家族の付き添いは禁止
てな具合だ。
手術の前日の夜から水以外の飲食はとらないように指示されていたので、当日の朝は空腹感に見舞われながら病院へ到着。幸い病院は私の家から徒歩圏内。車でも2分で着くところなので空腹感がMAXになる前にたどり着けて助かった。
車で送ってくれた夫は病院内へ入れないので、駐車場でお別れ。
指示のあった通りに、裏口のインターフォンを押して係りの人がドアを開けてくれるのを待った。
入った所で検温と手の消毒をし、事前に記入した書類を渡したり、新たに渡された誓約書などにサインし、ペーパーワークの提出が終わってやっと病室へ。
誓約書の1つはコロナに関するもので、「手術前に隔離をしました」「過去10日間のあいだにコロナの症状はありませんでした」等というような内容だ。
あとは、手術に関するもので、「手術の内容とリスクを理解しています」というような誓約書。
実はどんな手術なのか簡単な説明は担当医からあったのだが、イメージが沸かなかったので前日にYoutubeで検索して手術の説明つきビデオを見ていた。
最近は検索すれば知りたい情報がなんでも出てくる便利な世の中!
気楽に構えていたものの、図解と詳細な赤裸々とした説明を聞いていると恐ろしくなって、ビデオを見ている途中で停止ボタンを押してしまった。
というわけで、病室に入ってから手術室へ連れて行かれるまではちょっと不安でドキドキしていた。
病院に着いたのは朝7:30頃だったのだが、その後病室の設備の説明があったり、キッチンのスタッフからは「麻酔から目覚めた後は何を食べたいか」とメニューを見せてくれたり、麻酔担当者の人が血圧等のチェックをしてくれたり、と入れ替わり立ち代り、いろんな人が来てくれたおかげで、あの赤裸々なYoutubeのビデオを思い出さずにすんだ。
いろんな人が来る合間に、ベッドに用意されていた手術用の病院のガウン(後ろにヒモが付いていて結べるようになっている)とThrombo-Embolus Deterrent(TED)stockingsと言われる血栓防止用の膝丈の白いソックスに着替えた。
このソックスのサイズを確認するため、看護師さんが測定メジャーで私の膝下の長さも計ってくれた。
一目見ただけで、一番短かいサイズだとわかりそうなものだが….。
セクシーさのカケラが1つもなく(といっても、もともとないけど!)知ってる人に見られたらはずかしいいでたちだが、入院病棟にいる限り全員同じファッション(?)だと思うと全く気にならない!
午前10時過ぎにやっと手術室へ。
手術室に入った途端、ドアの前に置いてあったベッドへ横になるよう言われ、横になった瞬間2-3人の医療スタッフが、心拍数や血圧、血中酸素濃度などを計測するセンサーを私の体のたあちこちにつけ始めた。
そして麻酔を投与するためのカニューレが手早く装着されたかと思うと、麻酔担当者がそのカニューレから麻酔を投入し始めた。すごい手際のよさ!
手術室に着いて、ここまで1分もあったかないか。
そしてその後の記憶は全くない!
Youtubeの画像を思い出して手術が怖いと思うヒマすらなかった。
次に覚えているのは、のどがやたらと渇いて「お水がのみたーい!」という感覚に突然襲われたこと。
そしてぼーっとしながら目を開けると、周りには医療スタッフが忙しそうに動き回っている風景が入ってきた。恐らく手術室のとなりにあるリカバリールームに居るんだと思った。
手術の前につけられたセンサーやチューブはまだついたまま。
ちょっと息が苦しかったのは、鼻の上に厚手のガーゼがテープでとめられているからということがやっとわかった。
鼻が覆われてるので口がずっと開きっぱなしだったに違いない。
「だから、やたらとのどが渇いているのか!」
やっと状況が飲み込めたころ、看護婦さんが私の横たわるベッドまで来て「あ、起きましたね。じゃこれから病室へ戻りましょう。」と言った。
「お、お、お水が飲みたい….」とやっとのことで声を発して伝えると、「じゃあすぐに病室へ戻って、お水の用意をしましょう。」
と言ってくれ、ポーターの人(ベッドを押してくれる人)がきて私を病室まで運んでくれた。
病室まで着いたら、満タンに水の入った水差しとストローの入ったコップを出してくれて、私は砂漠で遭難した人のような気分でコップに入った水を飲み干した。
病室に戻ったのは確か午後2時くらいだったと思う。
その後は麻酔がぬけるまで朦朧とした感覚で病室で過ごした。
その間鼻の中から血やドロドロしたものがでてくるので、ガーゼを何回も変えてもらった。
鼻がそんな状態でつまった感じで、ずっと口で息をしないといけないのが、つらかった。
遅めのランチ(サンドイッチと紅茶)をケータリング担当の人が持って来てくれた時も、こんな状態だったので、あまり食欲がなかったが、何とか半分食べて紅茶を飲み干した。
とにかくやたらと喉が渇く…。
夕方になると、やっと麻酔が完全に抜けた感じになって、「あなたの体調次第でいつでもいい時間に退院できるので、帰れそうな時に声をかけてくださいね。」と看護師さんが言ってくれた。
夜の7時くらいに夫に電話し、迎えに来てもらうよう頼んだ。
普段なら、病室まで家族の人が迎えに来れるのだが、帰りも来たときと同様コロナ対策で病棟に入れないので、裏口の前で待ってってもうことにした。
「もすぐ夫が迎えにきてくれます。」と看護師さんに伝えると2-3分後に大きな紙袋に入った「退院キット」を持ってきてくれた。
その袋の中には、退院後に気をつけなくてはならない注意事項が書かれたパンフレットや、何かあった時の連絡先の書かれたレター、それと痛み止めや、鼻の洗浄用ボトルと水で薄めて使う塩分の入った粉30回分、出血を抑えるための大量のガーゼとテープなどが入っていた。
中身の説明が終わると、看護師さんが、荷物を持つのを手伝ってくれ裏口まで付いてきてくれた。
裏口を出ると、夫がすでに車を出口のすぐ前に駐車して待ってくれていた。
鼻の上に厚手のガーゼを貼られた私の顔を見て「おお~、ボクシングで戦ってきた後みたいだ!」とビックリしながら、ハグしてくれた。
退院後1週間はずっとガーゼを取り替えながら過ごしたが、2週目以降は出血も収まり鼻からも息ができるようになってすごく楽になった。
退院後2週目にはフォローアップの予約が入っていたので、担当医に術後の経過をチェックしてもらった。「手術は大成功でしたので安心してください。あと1-2ヶ月くらいしたら、手術前との違いがかなりわかってくると思います。」とのことだった。
せっかく手術したんだから、そうだと期待したい!
NHSとプライベート病院
実は今回の手術は、税金によって運営されている国営のNHS(国民医療サービス)ではなく医療保険を使って、プライベート(民営)の病院で受けた。
というのも、現在 NHS におけるRoutine Procedure(非緊急の治療や手術)を待っている人たちが全国で500 万人近くまで登っていて、中には1年以上も手術を待っている人たちがいるというニュースがでてたのと、NHSの耳鼻咽喉科にGP(登録しているかかりつけの医者)から照会状を書いてもらっても、専門医に見てもらえるまでに1年近くかかるときもあると言われたのもある。
以前からNHSでの治療や非緊急の手術はウェイティングリストが長かったのだが、去年からは、病院の医療スタッフがコロナの対応に回ってしまって、計画されていた多くの手術がキャンセルされてしまったので、バック・ログがすごいらしい。
UKでは国民全員がNHSにて無料で医療を受けられる。
これは収入のあるなしに関係なく全員無料で受けられるのだが、無料と言っても収入のある人はお給料から所得税の他にNI(National Insurance)費が自動的に天引きされ、これが年金や医療費に当てがわれている。所得額にもよるけれど、最近はだいたい所得の12%くらいがNI費として引かれている。
ということで、一般的にお金持ちでも貧乏でも同じ医療サービスを受けられる。
しかし、年々病む人が増えているのか最近は専門医に見てもらうまでに時間がかなりかかるようになってきた。
例えば高齢者に多い股関節置換手術(俗に言うヒップオペレーション)は平常時でも3-4ヶ月待たなくてはならない。
夫の義妹が最近胆石だと診断されたのだが、手術の予約がとれるまでにはあと4ヶ月近くかかると言われたようだ。何でも麻酔担当医が不足しているのも原因だとか。
その間は応急処置と投薬で症状を緩和させているという状況だ。
その一方、プライベートの病院ではGPからの診断書と照会状が出て、保険会社が契約している該当の病院に連絡をとって承認を得られれば、早くて2-3日、遅くても10日以内には専門医に見もらえ、もし手術が必要ということになれば、2週間以内には手術を受けることができる。
UKにある福利厚生がしっかりしている会社では、だいたいこのプライベートの保険も福利厚生の1つとして社員に保険を賭けてくれているところが多い。
幸い私の勤務先でもこのプライベート医療保険に加入してくれているので、今回はこの保険を使ってプライベート病院のお世話になった。
ただNHSとの違いは、プライベートの方は緊急外来はやっていない。
もし突然の事故や心臓発作などの緊急事態が起きたときは、保険に入っている、入っていないにかかわらず、どの国民もNHSのA&E (Accident & Emergency = 緊急外来)へ運ばれることになっている。
それと癌治療に関してもプライベートでは対応していないことが多い。
ただし、NHSの病院に癌で入院したり治療を受けた場合は保険会社から入院日数に合わせていくらかの見舞金が患者に支払われるようだ。
大きな違いはこのくらいだけれど、細い違いをいくつか挙げると….
プライベート
- 入院の際はトイレ・シャワー付きの個室に入れる
- 個室には専用のTVがあり、いつでも好きな番組を見れる
- 食事のメニューの内容がNHSより豊富
- サンドイッチを含め、食事や飲み物が陶器のうつわやカップ、グラスででてくる。
- コーヒーや紅茶をポットにいれて持ってきてくれる
- 食事や飲み物は頼めばいつでも持ってきてくれる
- 退院の際は当面必要な薬などを用意して持ってきてくれる。
- プライベート病院で雇われている医者は経験を積んだ専門医が多数なので安心できる。
NHS
- 入院の際は手術直後のリカバリータイム以外の時は4~6人の大部屋に入れられる。
- TVも大部屋に1つなので、見たくない番組がついていてもがまん..
- ドアのないBAYと呼ばれる大部屋なので、ゆっくり休みたくても人の歩く音や、看護婦さんたちの雑談、お茶や食事を運ぶトロリーの音などいろんな音が聞こえてきてゆっくり熟睡できない。
- トイレやシャワーは共同
- 紅茶やコーヒーなどの飲みものはプラスチックのカップ、サンドイッチはパッケージに入ったもの(よくコンビニでうっているようなパッケージ)が配られる
- 食事の内容にあまりチョイスがない。
- どんな内容の手術を受けても食事の内容は同じ。
たとえば、糖尿病の人も心臓病の人でも、油っこいフィッシュ&チップスや、
ケーキやポテチなどの選択肢がある(!!)
- 人手不足なのか効率が悪いのかわからないが、飲み物や食事を持ってきてくれる人が回ってくるのが遅い。
- 術後に質問があっても、めったに医者に会えない。
- 退院の際、当面必要な薬などは処方箋を渡されるので、それをもって病院内もしくは外部の薬局へ直行。ここでは待たされることが多い。
- ほとんどのNHSの病院では地元の大学と提携している大学病院になっているところが多く、実習生(Medical Student)が手術に立ち会ったり問診にきたりすることがある。
などなど..。
言ってみれば飛行機のエコノミークラスとビジネスクラスの違いってところだろうか。
行き先は同じだけど、乗っている間の心地よさに違いがあるのと同じような感じ。
とにかくこのパンデミック中に手術を受けてみて、プライベート医療保険に入っていて助かったと実感した。
まだ私の症状は日常生活に障害をきたほどのものではないけれど、もし苦痛を伴う症状の場合1年近くも待つのは辛い。
税金という形で貢献してるとは言え、無料で医療サービスを受けられることはにはとても安心感を感じられることも事実なんだけど…。