ロックダウン1週間前(3月16日~3月22日頃) – 事態は深刻に…

WHOのパンデミック宣言が出された翌週からイギリスでも緊迫感が感じられるようになってきた。TVではすでに死亡者数が毎日のように数百人単位で急上昇しトータル数が1000人に向かっていたイタリアの様子がニュースで毎日のように流れていた。

UKはこのイタリアより3週間遅れで進んでいるという情報がでて、皆不安を感じるようになった。

 

Daily Updateの放送開始

16日の月曜日からは毎日夕方5時からボリス首相(私の周りでは首相のことをファーストネームで呼ぶ人が多く、なぜかジョンソン首相という呼び方をする人はほぼいない…)のDaily Update(デイリーアップデート)がBBCで放映されることになった。

この日から毎日のように、前日比で感染者や死亡者が何人増えたか、PPEがどれだけ行き渡ったか、テストが何件実施されたか等の色んなデータがグラフ付きで発表され、国民はこれらのデータのシャワーを浴びることになる。

というわけで、NHSの病院で働いていない一般市民の私や同僚たちも朝会社で会うと

「昨日までの死亡者が100人超したってー?!」とか「ああ~、もうすぐイタリアを超しそうだね..」というような、データに基づく会話をすることに…。

 

またこの最初の会見では

  • 非必須(Non-essential)の外出や他の人との接触は避けること
  • パブ、クラブ、劇場など人が混雑する所は避けること
  • 可能であれば在宅勤務をすること
  • 妊婦の人や健康上に問題のある人は自己隔離すること

というようなアドバイス(勧告)がだされた。

この時点ではアドバイスという形だったので、強制力はなくパブを閉めたからといって、経済的な保障が得られないと、多くのパブやビジネスのオーナー達から意見がでていた。

確かに…!

私が気になったのは、在宅勤務のところだ..。

私の勤務先では現在まで在宅勤務を導入したことがない。

「政府が推奨するなら取り入れてくれるかな~」と次の日同僚たちと話していた。

 

またこの後、喘息持ち&低免疫症の義妹は有休か病欠をとってでも、早急に自己隔離に入りたいと上司にリクエストを出したところOKをもらえたようだった。

自分の身は自分で守らねば!

疾患を持っている人達はロックダウンになるのを待っていては手遅れになる可能性があるので、義妹の決断は理解できた。

雇用主たちもこのような前例のない事態に早急な対応を求められていて大変だと思った。

 

ロックダウン前の買い込みで食糧難!

首相の会見のあと、新聞やTVではイタリアに続きUKもロックダウンに入るまで秒読み段階と言うことが大きく取り上げられていた。

それはこの週から死亡者数が3桁になり突然右上がりにのぼり始めたのも理由のひとつで、国民もロックダウンの覚悟をし始めていた。

皆ロックダウンになる前に日用品や食料を買い込んでおこうとスーパーに殺到した。

今回はトイレットペーパーのみならず、長持ちする缶詰類(特にビイクドビーンズ!)や冷凍食品、それと肉類(とくに鶏肉はもも肉、胸肉、手羽先の全種類)や長期保存可能なUHTミルクなどもだ。日用品では除菌スプレーや除菌ワイプなども1つ残らずなくなっていた。もちろん小麦粉やハンドソープはずっとないまま…。

 

週の初めに会社で仕事をしていると、親族のメンバーから携帯にワッツアップメッセージが届いた。

「今日テスコ(UKの大手スーパー)に行ったら長蛇の列!」というメッセージに写真がついて送られてきた。それを見てビックリ!      

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「クリスマスでもないのにこの行列はなに?!」

クリスマスの時ですら、お店に入るために並んだことはないというのに!

なんだか自分がスーパーに居ないせいか、その写真を見ても現実味がなく、「きっと今日だけに違いない」とどこかで疑っていた。

 

次の日会社へ行くと同僚が「昨日テスコに行ったらチキンが1つもなかったよ!!」と言ったので、

「うそー、チキンが?」

「週末行ったときはあったよ!うちの近所のテスコに行って見てみる」

と半信半疑に答えた。

仕事の帰りにスーパーに寄ってみたのだが、どこもかしこもすっからカーンになっている棚をみて愕然とした。

「ホントにない~!!」

その昔、まだロシアがソビエトだったころ、何も売るものが残っていないお店がTVに映っていたことを思い出してしまった。私は当時その画像を見て先進国に生まれた事に感謝したものだった…。

「ひょっとして、ここは昔のソビエト?」

昨日まで普通の生活を送っていたのに、突然として食糧難になるなんて!

幸い70-80年代のソビエトと違って、野菜と果物は残っていたので少し安心した。

「お肉や卵がなくても野菜を食べてしのごう…。そうだ、帰ったら野菜のレシピでも検索するか…。」

「もうしばらくお肉は食べれないかもしれないけど、ダイエットにはよさそうだし。」と必死にポジティブ思考をめぐらせ、意を決して家に帰った。

 

その次の日だったと思うが、スーパーで買占めをした人たちの心をゆさぶるビデオメッセージがBBCのニュースに流れた。

それはコロナの恐怖ととなり合わせになりながら病院で長時間夜通し働いた後、家に帰る途中の仕事上がりの看護婦さんだった。

仕事帰りの朝スーパーに行って食料を買って帰ろうとしたら、棚にはなにも残ってなくて、スーパーの駐車場の車の中から、

「Please stop! (お願いだから買占めはやめて!) 命を張って働いている私たちはいったい何が買えるの?」

と涙で声を震わせながら訴えているビデオだった。

ひと時も気を休められない仕事を夜通しして、きっと家に帰ったら食べたいものでも食べてゆっくり休みたかっただろうに、なにも残ってない棚をみて、ストレスがMAXに達しプツンと何かが切れてしまったに違いない。

 

このビデオが流れたあと、大手スーパーのSainsbury’s(センスベリーズ)からEメールが届いた。コロナのために戦ってくれているNHSのスタッフと買占めが起きている場所に来ると危険性が高いお年寄り対象に特別に買い物できる時間帯が設けられたと。

この早い対応に感心!

後日、この特別買い物タイムはNHSのスタッフ以外のエッセンシャルワーカーにも拡張され、他の大手スーパーでも同じシステムが取り入れられた。

 

実は私もロックダウンになった時のために「冷凍庫をもう一つ買っておこうか~?」と夫と数週間前から話していた。「冷凍食品の他に肉類や多めに作った食材も冷凍保存できるし!」

だが、手ごろなサイズの冷凍庫の納期はどれも4月末になっていた。

「デリバリー6週間後?!」

我が家にはすでに冷凍庫が2つあるので、大きなサイズのものはいらない。

「きっと皆同じこと(=プラス1の冷凍庫)を考えてるにちがいない!」と言いながら断念した。

結局予備の冷凍庫を買っていたとしても、この買占めで冷凍庫にいれる食料は手に入らなかったので買わなくてよかったかも!

 

パンデミック中に海外へ行くと

この週は会社で予定していた代理店向けトレーニングがキャンセルになったので、同じ部署の同僚は急遽エジプトの客先訪問をすることになった。

「このコロナが悪化する中、海外に渡航するの大丈夫?」

と出張手配を担当している私は不安に思ったが、どうしても来て欲しいとの客先の要望で、社長からもOKがでたので、日曜日~金曜日(20日)の予定でフライトを予約した。

ところが…

同僚がエジプトについた2日後に、エジプトのエアー.トラフィック(航空交通)が閉鎖になるという情報が流れてきた。

エジプト政府のウェブサイトをチェックしてみると19日(木)のお昼以降、すべてのフライトは運行停止になるとでていた。

帰りのフライトを予約していたエジプトエアーからは何のお知らせも来てなかったけれど、これは早く帰りの便を変更しないと同僚はUKに帰ってこれなくなるかも!と焦って当初の予定より1日前や2日前に変更できないか調べてみたところ、なんとどれも「Not Available-(満席)」と出てきたではないか!

私の頭には、「もうコロナが収束するまで同僚はエジプトにとどまることになるかも!」という想定図が描かれ始めていた。

幸い旅行会社の担当者の人がBA(ブリティッシュエアウェイズ)なら今すぐ予約入れれば取れそう!と教えてくれたので、帰りのチケットを新たにBAで購入することになった。とにかく無事に帰ってこれることになってよかった!と胸をなでおろしたが、後でこの同僚のように幸運にみまわれなかった人がたくさんいたと知った。

元々帰ってくる予定だった金曜日にはカイロ空港で足止めをくらってパニックしてる人たちがニュースにでていた。

同僚と同じくエジプトエアーを予約していた人たちが、何もお知らせがなかったので予定通り空港に行ったら、そこではじめて全てのフライトが運航停止になったことを知ったと。

「これからどうやって帰ろうか…」と途方にくれてる人もいれば、「陸路で中東へ行き、そこからトルコを経由してなんとかUKまで行けそう」と言う人も…。

同僚は運よく帰ってこれたが、今回のことで、パンデミック中はいつどこで国境閉鎖になるかわからないという危険性があることを実感した。

 

NHS(National Health Service-国民保健サービス)を応援するための拍手

涙ながらにスーパーの駐車場から「どうか買占めはやめて!」と訴えていた看護婦さんを見て、危険にさらされながら病院の最前線で働いているNHSの人たちの大変さを感じていた頃、WhatsApp(ワッツアップ)にメッセージが届いた。

それは、「NHSで働く人たちに感謝を表すため、3月26日(木)の夜8時に皆で拍手を送りましょう」というメッセージだった。

家の玄関先や窓や庭から拍手を送って、コロナウィルスと戦ってくれている医療従事者に感謝の気持ちを表すというのが趣旨らしい。

       

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NHSのスタッフに感謝するため拍手をしましょうというメッセージ

「グッドアイデア!非医療従事者として何もできない私にも、このくらいなら貢献できるわ!」と思った。

「来週の木曜日ね。早速カレンダーにいれておこう!」

 

不安の高まり

週も半ばになると、もういつロックダウンがはじまってもおかしくない状況になっているのがヒシヒシと伝わってきた。

まず18日(水)にはボリス首相から「今週金曜日から全国の学校を閉鎖します」とアナウンスがあった。

学校が休校になるということは、働いている親たちも休まなくてはならぬ..。

またお年寄りは自己隔離するようにとのアドバイスがでていたので、もし祖父母が近所に住んでいたとしても、祖父母に子供を預けて働きにいくことはできない。

ロックダウンにならないと子供をかかえる親たちは、家で働くか、それができない場合は休みをとらなくてはならない。すると結局働きに行ける人の数がかなり減ってしまう。

というわけで、「もうこれなら早くロックダウンにならないかしら。こんな状況の中、ウィルス感染を心配しながら通勤したり勤務するのも不安だし!」と思う人たちも私の周りにたくさんでてきた。

 

この頃またワッツアップにロックダウンが間近に迫っていることをほのめかす写真が送られてきた。

それはロンドンに軍隊が送られている写真で、通常は戦場でしか見かけないような軍事用の医療車などがロンドン方面に向かって搬送されているところも写っていた。

こういう時期に限って人の不安を仰ぐフェイクニュースがよく出てくるので、一瞬この重々しい写真を見て「本当かしら~?」と思ったが、ニュースにも軍隊がロンドンの応援に出動したとでていた。

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このような写真がワッツアップに送られてきた

それにしてもこの写真をみて、ロンドンではかなり事態が悪化してきているのではと心配になってきた。

 

同じ頃、先週ロンドンの企業へ就職の面接&プレゼンに行った息子にメールが届いた。

「とてもよいプレゼンをしてくれて有難う。残念ながらこの前例のない現状況により今回の採用プログラムは保留することになりました。もし近い将来事態が回復したらご連絡します。」との内容だった。

せっかくあともう少し!というところまで来ていたので息子は残念そうだったが、今はどの企業もこの先どうなるかわからない状況にあるので理解できた。

「ああ~、やっとスネかじりが一人減ると思ったのに…。」

こんなところにもコロナの影響が…!

がんばった息子には気の毒だったが、この時期ロンドンに行かなくてよくなった事には安心した。

 

もうすぐロックダウン

この週の終わりの金曜日には首相の会見で、「全てのパブ、カフェ、レストランやバー等の飲食店とスポーツジムは閉鎖するように」との指令がでた。

週の初めにアドバイス(勧告)という形ででていた内容が命令に変わった。

ということで、これに従わなかった場合は懲罰がかかることになる。

またChancellor of the Exchequer(日本でいう大蔵大臣)のSunak(スナーク)氏からは、「コロナの影響のため雇用継続が困難な雇用主には雇用者の給与の80%を政府が補助します。」

というアナウンスがあった。

「あ~、もうこれはロックダウンだね~!」と夫と話していた。

国民の気持ちはもう「いつロックダウンになるの?」とほぼ待っていた状態だったが、

仕事に行かないとなると収入面が心配だった。

このスナーク氏の発表で安心した人が多かったと思う。

しかし事業を停止することにより倒産してしまう企業もでてくるかもしれない。

「私の会社はどうなるのかしら~。」不安は消えない…。

 

またスポーツジムも正式に閉鎖されることになって、なんだか寂しくなってきた。

会社の帰りや週末の朝、定期的にジムに行っていたので、私の生活パターンの一部になっていた。

「いつも同じクラスに参加する人たちや、ロッカールームで会う人たちと世間話するのもこれからしばらくなくなってしまうわ~。」と少し寂しく思った。

 

翌週月曜日にロックダウンの詳細が発表されることになった。

とりあえず月曜はいつもの通り出社してこれからどうなるか聞いてこよう…。