ロックダウン1週目(3月23日~3月29日頃) – その1: ロックダウン突入へ
何という1週間だろうか!
いろんな事が起こり、私たちの生活が一変した週だったのでいくつかに分けて書きたいと思う。
この週の月曜日(23日)、私はいつもの通り朝5時半起きして、家を7時前に出て仕事に行った。仕事が始まるのは朝8時からだが、私は越境通勤しているのでモーターウェイと言われる高速道路を通って会社までいつも車で1時間強かかる。
UKのモーターウェイは日本の高速道路と違ってほんの一部の有料区間を除いては無料で使えるので、多くの人が普通に通勤路として使っている。そのためラッシュアワーの高速の出入り口はいつも混み混みだ。
先週金曜日の首相の会見があった後だったので、この月曜日の朝は道はすいているだろうと予想していた通り、どこの道路も週末かと思うくらいすいていて50分くらいで会社に着いた。
ついこの間まで朝の通勤時は真っ暗で、景色も灰色の世界だったが、やっと3月になり日も少しづつ長くなってきたお蔭で青々としてきたの牧草地帯や、道路わきに咲き始めた黄色い水仙の花々を見れるようになり通勤時の運転も楽しめるようになってきた。
「やっと暗くて長いトンネルから抜け出てきたみたいだわ~!」と気持ちも明るくなって、携帯からブルートゥース経由で流れてくる曲に合わせて歌いながら運転していた。
いつもなら、渋滞まみれの通勤路を焦った気持ちで運転しているのだが、今朝はスイスイだったので、
「そうだ、早く着き過ぎるとゲートを開けてくれるおじさんがまだ到着してないかもしれないからスタバでコーヒーでも買っていこう~!」と気分的にも余裕があった。
会社の近くのサービスエリアに併設されているスターバックスのドライブスルーでカプチーノを買って会社へ向かった。
カフェの中の飲食できるエリアはさっそく政府の指示通り閉まっていたが、幸いなことにドライブスルーは開いていた。
早起きして1時間近く運転した後、香りのよいコーヒーをすすると眠気がさめてきて、ささやかな幸せを感じていた。
今思えばカフェでコーヒーが買えたのもこのこれが最後だった…。
会社に着くと同僚たちと先週末の首相の会見の話になった。
「私たちも在宅勤務になるかなぁ。」
「この会社は閉まるのかしら~。ヨーロッパの代理店もロックダウンしているところもあるし、取引先のスタッフのほとんどがもう在宅になっている会社もあるしね…。」
「閉めることになったとしても、アジアの工場から空輸中の商品の貨物もあるし、その中には代理店が待っているのものるから、到着したらそれをすぐに送らないといけないし..。」
「SAP(経理&在庫管理システム)とサーバーにさえアクセスできれば問題ないと思うよ。」「メールならOffice365にアクセスしても見れるし!」などと皆で話していた。
そのあとキッチンへ行くと社長が座ってお茶を飲んでいた。
そして私たちの疑問に答えるかのように「政府の指示に基づいた会社のプランを後からメールで全員にお知らせするよ。」と言われた。
社長の予告通りランチタイムの後、スタッフ全員宛に総務からメールが送られてきた。
内容は、
- 7人ほどのコアメンバー(主にマネージャークラス)は今まで通り出社
- それ以外の人で会社のラップトップでサーバーにアクセス可能な人は自宅勤務
- エンジニア系と営業の人は自宅待機&メール対応はOKだが客先訪問禁止
1)以外の人は今残っている仕事が片付き次第直属の上司1)に引継ぎをして、机の周りを整頓し帰宅すること。自宅待機・勤務中は連絡可能な状態を保ち、政府のアドバイスに従って家に篭ること。(Stay at home)
また「4月のお給料はフルで支払われますが、5月以降は政府の補助金に切り替わるので80%のお給料(上限は2500ポンドまで)になります。」とも。
私は2番目に当てはまり、サーバーにアクセス可能なラップトップを支給されることになった。
お給料80%になったとしても、とりあえずこの先2-3ヶ月は何とか雇用されたままになるということでひとまず安心。でもその先のことはきっと社長でもわからないだろう…。
私は長距離通勤のため毎週ガソリンを満タン入れている。お給料が80%になったとしてもガソリン代を節約できると思えば、手元に残る額はたいして減らないと思うので、それほど大打撃ではない。かえって通勤がなくなると早起きしなくていいので助かる。
長年に渡って長距離通勤していた私は日頃から(特に渋滞がひどくなったここ3年ほど)在宅勤務ができたら通勤時間が省略できるしガソリン代も節約でききていいんだけどなぁ~と夢に描いていた。
2回ほど機会があった際に、「毎日でなくてもいいから週1-2日くらい在宅勤務できないか」と会社に聞いてみたが、積極的な返事は返ってこなかった。
まさかコロナウィルスによってこれが現実になろうとは!
私がNetflixにはまっていることを知っている同僚からは「通勤がなくなる分、韓ドラいっぱい見れるね!」と言われた。
おお~、そうだ!
これから行動に制限されるから家に篭るしかないけれど、ドラマ見放題のNetflixさえあれば乗り切れる!
ドラマにハマッってしまうと、特に週末は時間を忘れて立て続けに3-4話くらい見てしうこともあり気がついたら陽が落ちて夜になってたことも!
いつもウィークデーに家にいるのは夕飯時とその後夫と一緒にドラマを見る時、そして寝てる間くらい。
週末は食料の買出し、家の片付けやジム、又は友人とショッピング&ランチと、でかけてばかりで、家にこもることがなかった。「ずっと家にいたらストレスになるかも..?」と不安に思っていたが、好きなドラマをいつでも見れると思ったら、
「Stay at home? ぜんぜんオッケー!」だと思い始めた。
総務からのメールのあと、早速仕事を片付ける準備にとりかかった。
溜まっている仕事はそれほどなかったので、自宅勤務で必要になりそうな資料をラップトップからもみれるようにOne Driveやサーバーのフォルダーに落としたり、同じ部署の人とコミュニケーションをとり易くできるよう、Microsoft Teamsのグループ設定をしたりなどして、その後机の周りを片付けて帰る準備をした。
次に自分の机にもどれるのはいつかな…、とふと思った。
とにかく今起きてるようなことは今までに前例がなく、誰もこの先どうなるか予測がつかない。会社の存命もそうだが、同僚やその家族の人たちにも何事も起こりませんようにと祈るばかりだ。
会社を出る際に皆で「次はいつ会えるかわからないけど、安全に、元気でいよう!」
と言って別れた。
最終準備
この日会社から帰った後は、次はいつ遠出できるかわからない。
特に越境して出かけられるのはいつになるのか…。
私には家に篭り始める前に絶対確保しなければならないアイテムが1つあった。
それは会社から車で15分ほど行ったところにある韓国スーパーで売っている「冷凍さぬきうどん」。
私の地元の街にある中華食料品店や普通のスーパーでも「Udon」と書いてある真空パックに入ったうどんらしきものを売っているが、ゴムを食べているような食感でいまいち美味しくない。
この韓国のスーパーで売っているのは冷凍だが、1パック5玉入っていて£3.50 (約500円)と手ごろで、味も日本で売っているうどんと変わらない。商品名も「さぬきうどん」だ。
このスーパーでは韓国、中国の食材が主に売られているが、ベーシックな日本の食材もわずかながら置いてある。(だし、味噌、調味料、カレー粉、納豆、のり、冷凍コロッケ等)
我が家は息子も娘もうどんが大好きでスナックのかわりによく食べるので、このうどんはいつもに冷凍庫に常備されている。
まるで命の綱のように。(どちらかと言うと命の麺?)
あまりにもうどんが好きなので、数年前日本に帰省した際に香川県に行って「手打ち讃岐うどん教室」に参加したほどだ。
美味しいうどんが手に入らなかった頃はたまに手作りしていたが、この冷凍うどんが入手できるようになってからは、早い、安い、美味しい、の3拍子揃っててずっと買い続けていた。
「この讃岐うどんをロックダウン前に冷凍庫に入るだけ確保しておかねば!うどんがなければロックダウンも乗り切れない…。」というシグナルがずっと私の脳の中で繰り返し流れていた。
そうだ、韓国スーパーに行くついでにお米もあるかチェックしておこう。
日本から輸入されている純日本米は結構高いので、我が家はいつも「ゆめにしき」と言う名のイタリア産こしひかりを使っている。日本からの輸入米以外だと、いろいろ試した中でこれがコスパ的にも一番いい線いってるお米だと思う。
3月初旬にパニック買いが始まってイギリス人がパスタや小麦粉を買い占めていたころ、日本人の私が最初に心配したのは「お米がなくなったらどうしよう!」だ。
アマゾンUKでもこの「ゆめにしき」を買えるので10kgの袋を予備として取り寄せておいた。
その次の週、「もしロックダウンが長期化したらもっと必要かも!」と思いもう1袋注文しておこう思ったら、もうすでに売り切れではないか!
ロンドンにある日本の食材屋さん3件くらいをネットで検索してみたが、どこも「在庫なし」とでてきた。
「そうかぁ、きっと私のような在英日本人は皆同じことを考えてるんだわ。やっぱり日本人はお米がないとね~。」とこの「在庫なし」と映し出されているPCのスクリーンに向かって独り言を言いながら納得していた。
韓国スーパーに入ってお米コーナーに行ってみたが、ここでもやはり!
「ゆめにしき」は売り切れだった。
幸い「さぬきうどん」は冷凍の陳列棚にびっちり並んでいた。ほっ!
わたしは飛び跳ねて喜びたい衝動を抑えて、頭の中で「ありがとう~!ありがとう~!」
と叫びながら5袋(25玉)かごに入れた。
何もかも売り切れになってる物ばかりを見ていると、欲しいものがあった時の感動って大きいんだなぁと悟った。
たとえそれが£3.50のうどんでも、今の私にはダイヤモンドのネックレスより価値があった。ダイヤのネックレスを見てるだけではロックダウンは乗り切れぬ。
戦時中、貴重品を質屋にいれてお米を買っていた人たちの気持ちが改めてよく理解できる。
もっと欲しかったがうちの冷凍庫には他の物も買い置きで入れたばかりなので、残念ながらキャパがなかった。やっぱりうどん専用にでも予備の冷凍庫を注文しておくべきだった。
何はともあれ家に篭る前に欲しかったうどんが買えたので一先ず安心して帰路についた。
ロックダウン開始の発表
この日の夕方のボリス首相の記者会見で、ついに正式に「Nationwide lockdown - 全国一斉にロックダウン」に入るアナウンスがでた。
要点はとしては全国民は以下の理由以外は外出せず家に篭ることだ。(stay at home)
- 食料や医薬品など生活に必要なものを入手するための買い物
(少ない頻度で行うこと)
- 1日1回のみ外に出て運動は可
(ランニング、散歩、サイクリング等。一人で、もしくは同じ家に同居している
家族と一緒に)
- 医療関係で必要な外出 (献血、ケアが必要な人を助けるため等)
- 通勤(在宅勤務が不可能な場合のみ)
これは一度に大勢の人が感染し、病院での治療が必要になった場合、NHSが対応しきれなくなってしまうのを防ぐため、人と人の接触を最小限に抑え、感染を予防するのが最大の目的だとの説明もあった。
またこのルールに従わない人には懲罰(罰金)が課せられるとの事。
ボリス首相の説明は簡潔で説得力があると思った。
また科学的な説明に基づいて的確な段階で的確なアクションをとろうとしてることも明確に伝わってきたと思う。
恐らく後から「この決断は遅すぎた」や「もっときびしくするべきだ」等の批判がいつもの通り野党からでるかもしれないが、このような前例のない事態では、その時ベストだと思われる決断を下すしかない。
その点で、ボリス氏はリーダーシップがあるな、と思った。
前首相のテレサ・メイからボリス氏に代わった時、最大の案件はBrexit(UKのEU離脱)で、私の周りの人たちはみな「ええ~、ボリス?」というようなリアクションだった。
今回のコロナウィルスではNHSの機能崩壊を未然に防ぐため一生懸命対策をたてている様子が伝わってきて国民も「NHSを守らなくては!」という団結感を抱き始めた感じがした。
数日後、このアナウンスの内容をまとめたパンフレットと、ルールを守って家に篭るよう呼びかけた首相のサインいりレターが各家庭に郵送されてきた。
完全な隔離でなく、散歩にもいけるし、食料の買い物にも行けるので、私は特に困らないと思った。
出かけたくても、お店もレストランもレジャー施設も閉まることになったので、行くところもない。開いているところはスーパーと薬局くらいだ。
外出しなければ、新しい服もいらないし、化粧もしなくていい。
髪の毛もボサボサでも家族以外の人には見られる心配もない。
人に会えない寂しさでストレスになり鬱になる人がでてくることも懸念されているが、私は身なりを気にしなくなって、ロックダウンが終わるころ10歳くらい老けてしまうのでは、ということが心配になってきた。
「在宅勤務になってもなるべく普段とかわらない生活習慣をキープしなくては!」と自分に言い聞かせた。