ロックダウン2週間前 (3月9日~3月15日頃) – 変化の始まり

2-3週間前までは「コロナも3月頃には収まってるといいねぇ。」と同僚たちと祈っていたのとは裏腹に、3月も2週目に入ると事態はだんだん深刻化してきた。

私の周りでもいろんなことが変化しはじめた。

 

スペイン

週明けの新聞には週末(8日)にマドリッドで行われた「Women's Day March(ウェメンズデー・マーチ)」の集会の様子がでていた。

12万人もの人が参加したとのことで、女性の権利を主張するスローガンや性差別反対のメッセージが書かれたプラカードを持った人たちで埋まったマドリッドの街の様子が写真に映っていた。その中で1つのプラカードが目を惹いた。

「Sexism kills more than Corona!」

(コロナより性差別のために亡くなる人がもっといる!)

というプラカードを持っている女性がいた。

「おお~!性差別をウィルスと比較するのかぁ。2020年っぽいスローガンだな..」

とその時は何気なく思った。

後から、この12万人の集会がスペインでコロナが爆発的に蔓延する引き金になったと知って、あのプラカードのメッセージがフラッシュバックして蘇ってきた。

きっとあのプラカードを持ってた女性は、悲しいことに2週間後コロナで数千人の死者がスペイン内ででることは予期していなかったに違いない…。

 

通勤

この週から通勤時の渋滞がかなり緩和されていることに気づき始めた。

いつもなら必ず渋滞になる区間が3ヶ所くらいあって、その渋滞がひどい時には通勤に1時間15分くらいかかるのだが、この週から1時間以内で会社に着けるようになった。

私の夫もそうだが、世間では自宅勤務できる人は自主的にテレワークに切り替えてるようだった。

今のところ、私の会社からは何も自宅勤務の指示等はでてなかったので、早起きしなくていい夫が羨ましく、「私もテレワークがいいなぁ~」と思ってはいたものの、いつもより道がすいていて渋滞もなく、スイスイと通勤できたので出勤するのは別に苦にならなかった。

いつもなら牛や羊しか見えないイギリスの牧草地帯の真ん中を通る高速道路を運転しながら、「日本にいた頃は満員電車に乗って都会の空気を吸いながら通勤してたのになぁ。」とその昔東京のど真ん中で働いていた頃を懐かしく思っていた。

だが、このコロナが上陸してからというもの、人と接触しなくてよい車通勤に感謝し始めた。たとえ見えるものが牛と羊でも…。

感染を気にしながら都会のラッシュアワーを通勤する人たちはきっと神経をすり減らす思いにちがいない。イギリスでもロンドンのような都会では電車通勤でギューギューずめになりながら通勤している人がたくさんいるので心配だ…。

 

オフィス 

オフィスではあちこちに殺菌効果のあるハンドジェルのポンプ式ボトルが置かれ始めた。

私の机の横にあるキャビネットの上にも1つハンドジェルのボトルが置かれた。

置いてあると頻繁に使いたくなる。席を立つたびにハンドジェルで手を消毒し始めた。

いつもオフィスの掃除をしてくれている東欧出身のおばさんも、拭き掃除に余念がなくなってきた。

Anti-bacterial Spray(抗菌剤入りのスプレー)を四六時中ふってはオフィスの中を拭いて回っていた。

私の机の横のキャビネットにもスプレーと清掃ワイプをセットで置いてくれた。

ハンドジェルと同じく、置いてあると使いたくなるので、早速抗菌ワイプで私の部署の周りを拭いて回った。私の部署から出入りできるミーティングルームのドアの取っ手やウェアハウスに行く際通るドアの取っ手を拭いてみると、真っ黒!

「ひぇぇ~!こんな取っ手を今まで触ってたのぉ-!? コロナ菌よりも雑菌の方が恐ろしいかも!」とショックだったので、余計なことはせず気を取り戻して仕事に戻った。

 

ランチタイムにキッチンに行くと、いつもよりテーブルの数が減っていた。

いつもなら各テーブルの両側に椅子が並べられているのだが、これも片方にしか並んでない。

社長が「一回に入れる人数を減らすため、テーブルと椅子の数を半分にしたよ。」と言っていた。

この頃から人と人の距離を置くソーシャルディスタンスをみな意識しはじめた。

 

キッチンに入れる人数が制限されてきたので、私はいつも一緒にランチを食べている同僚とオフィスに戻ってお昼をたべることにした。

いつもなっらザワザワしいるキッチンもこの週から、閑散とした感じになった。

 

新たな被害者

一緒にお昼を食べていた同僚が、「コロナビールの売り上げが落ちてるらしいよ~。」

と教えてくれた。

このコロナビールはメキシコ産なのだが、UKでも結構人気のある薄い色のビールで、くし切りにスライスしたライムをボトルのなかに落として飲む人が多い。

夏場に庭でバーベキューをする時、このビールを持参してくる人が結構いる。

「ええ!?コロナビールが?」

「ウィルスと同じ名前だから?」

「そうらしいよー!」

という会話をしながら、意外なところにもこのウィルスの影響がでていることにビックリ。

コロナビールもこのウィルスの被害者となってしまうなんて..。

             

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後日でていたニュースでは4月初旬にコロナビールの製造が停止されたようだ。

メキシコ政府からNon-essential(非必須)の製造は停止するようにとの命令がでたのが理由だが、コロナが収束したらまた製造を開始してくれますように、と祈りたい!

 

フットボール

フットボールファンには残念なお知らせがこの週流れた。

すべてのプレミアリーグの試合がこの週から中止されることになった。

またその他のスポーツのイベントやコンサート、フェステェバル等のイベントも翌週から禁止となることになった。

私の街にもプレミアリーグのフットボールチームがあるが、このチームの選手のうち3人もコロナに感染しているというニュースがローカル新聞にでていたばかりだった。

スポーツイベントのシーズン中は試合が放映される時間を中心に日々のスケジュールをたてている人たち(うちの夫と息子を含む)が山といるのに、この人たちは今度からどうするのだろうか?

きっと行き場を失ったように喪失感に襲われるのでは…。

特に週末の試合は、夫も息子も義父か義弟の家に行って皆で集まってたり、パブに皆で行って一緒に試合を見ていた。その間私は誰も見ていない居間の大きなTVで、ゆっくりNetflixの韓ドラを見たり自分の時間を過ごしていた。

スポーイベントがなくなると、行き場のなくなった夫と息子が家にいることになるので、ひょっとしてこの時間もなくなるのか…。

スポーツイベント中止になって「私のひととき」タイムはどうなるのぉ?!と心配になってきた。

 

息子の就職活動

我が家の息子は去年の夏大学を卒業してから下宿先を引き払って家に戻ってきていた。

しばらく同級生と旅行に行ったりのんびりした後、やっと年明けから思い腰を上げて就職活動を始めた。

最近はオンラインでの審査が多く、いくつか応募した中でやっと一件手ごたえのありそうな企業がでてきた。

2月末から申請してオンラインインタビュー、オンラインの適正テストをパスし、やっと第3段階のプレゼンを実際の審査担当者に会って行うというところまで来ていた。

プレゼンの日はこの週の木曜日、12日だった。

この企業はロンドンにあった。ロンドンは私たちの住むミッドランドから特急電車で1時間強、長距離バスで3時間ほどかかるので、息子は朝10時からのプレゼンに間に合うよう、念のため近くにホテルをとって前泊することにした。

私は息子のプレゼンが上手くいきますようにという心配よりも、このコロナウィルスが広まり始めた人ごみの多いロンドンに行くこと自体が心配だった。

念のため携帯用のハンドジェルとフィルター付きのマスクを渡しておいた。

無事に帰ってきて「どうだった?」と聞くと、

「担当者の人から今きている応募者の中では一番適正のあるグループに入ってるって言われたよ。」

「来週末までに結果を知らせてくれるらしい。」との事だった。

私はこの「脈あり」コメントに大きな期待をし始めていた。

あぁ~、やっとスネかじりだった息子も就職してくれることになるかも!

来週いい返事がきますように!

 

70歳以上の人たち

週も終わりに近づくと、保健相のハンコック氏から「70歳以上の人たちはできるだけSelf-isolate(自己隔離)して家から極力でないように」とのアドバイスがでた。

この時点では強制的ではなくまだアドバイスの段階だったが、お年寄りや健康上問題のある人たちはコロナに感染すると死亡に至る確立が高いというデータがでたため、義妹から親族全員に「みんな、おじいちゃん(義父)おばあちゃん(義母)のことを大切に思ってると思うし、会いたいと思うかもしれないけど、しばらくは会いにいかないようにしましょう」というメッセージが送られてきた。

みんなこれには納得した。が…

義母から抗議の電話が皆にかかってきたのだ。

義母は昨年の秋2番目のだんなさんを癌で亡くしたばかりで、まだ悲しみから立ち直れてなかった。今まで二人で住んでいた家に一人で居ることに耐え切れず、今年の初めまで義妹の家に泊まり込んでいた。その後は日中義妹宅や義弟宅、そして我が家に来て、寝るときだけ自分の家に帰る、というような生活をしていた。

「一人でいるくらいなら死んだほうがいいわ!」と言い出し、みな頭を抱え始めた。

この義母とは対照的にずっと一人暮らしだった義父は「静かな生活ができそうで、別に問題ないよ。」と言っていた。 ほっ。

 

この保健相のアドバイスがでた後、BBCの朝のニュースに3人のおばあちゃんがでていた。

3人ともだんなさんを亡くした未亡人で、このコロナが収束するまで、3人一緒に1つの家に篭ることにしたという話題だった。

「私たち、これさえあれば乗り切れるわ~!」

と言いながらたっぷり買い込んだワインのボトルを指差していた。

3人とも楽しそうに笑っていた。

私は義母にもこんなお友達がいたらいいのになぁ、とひそかに思ってしまった。

 

オーストラリア

この週の金曜日(13日)はついに、オーストラリア3週間のホリデーに行くのを指折り数えていた同僚の旅立つ日だった。

前の日はみんなで「思い切り楽しんできて!」と言って別れた。

シンガポールでコロナ感染者が2月にでてからシンガポール経由だったフライトをドバイ経由に変更したので、「今ごろドバイに向かって飛んでるところだね~」と同僚たちみんなと噂していた。

ところが、この日が終わるころ、一人の同僚が「聞いた?オーストラリアは15日の日曜日から入国者全員14日間の自己隔離することになるらしいよ!」というニュースを知らせに来た。

今オーストラリアに向かっている途中の同僚と奥さんが到着するのはちょうど15日のはずだった。

「3週間のホリデーのうち、2週間は隔離状態ってこと?」

せっかくのホリデーが台無しになりませんように!と皆で祈りたい気持ちになった。

 

スポーツジム

私の行っているスポーツジムには「Cleaning Staff」と言う文字の入ったTシャツを着た清掃担当者の人たちが定時5-6人巡回していて、器具の置いてあるエリアやロッカールームやシャワールームをいつも殺菌スプレーを片手にあらゆる表面を拭いて回ってくれている。

スタジオ内にはスプレーや殺菌ワイプが置いてあり、グループレッスンに参加するのが好きな私はいつもこれを使ってマットやウェイトバー等を拭いている。

特に1つ前のクラスの人たちが汗だくになりながら使ったものは、念には念を入れてもう一度拭いたりしていた。

この週あたりから、やはりスポーツジムでもいつもより輪をかけて衛生面に気を使うようになってきた。

先ず入り口を入った受付のところにハンドジェルが置かれ、入館時にこのジェルで手を消毒するようにと受付の人から言われるようになった。

ジムの中のいたるところにもこのジェルと殺菌スプレーが置かれるようになった。

私は週に2回ほど夕方仕事の帰りにBody PumpやBody Combat等のグループレッスンに参加するのが好きなのだが、夕方のクラスは人気があるのでジムのアプリで必ず予約しおくことにしている。この週からグループレッスンを敬遠する人がでてきたのか、行ってみたらいつもよりすいていた。定員を半分にしたクラスもあるようだった。

いつもレッスンが終わるとインストラクターのお兄さんが「Well done!」とか「Good job!」(よくやったね!)と言いながらスタジオの出口に立ちながら一人づつにハイファイブしてくれるのだが、これもなくなった…。

お互い汗をかいてる手を合わせるのに「うーん..?」と思ったこともあったが、いざこのハイファイブがなくなるとモチベーションが上がらないではないか!

汗がとびちるスタジオの中でコロナウィルスの感染にヒヤヒヤしながら運動するのも気が休まらなくなってきたし、私もしばらくジムはパスしようかなと思い始めた。

 

Pandemic(パンデミック)に…

WHOがこの週、コロナウィルスをパンデミックと確定したとニュースにでていた。

パンデミックとはよく聞くけど、いまいち定義がわからなかった。

早速Googleで検索してみると、「人類を脅かす感染症の世界的流行」とでてきた。

最後にヨーロッパで起きたパンデミックは1918年のスペイン風邪で4000万人以上の死者がでたとも…。 なんだか心が暗くなってきた。