ロックダウン3週間前 (3月2日~3月8日頃) -パニック買いスタート!
3月に入ると、オーストリアで国境閉鎖が始まったとニュースに出ていた。
「オーストリアで?」コロナ感染者が多いとも今まで聞いていなかったので意外に思った。
たぶんイタリアに次いでヨーロッパの中でいち早く入国制限の始まった国の1つだ。
この迅速な対応は意外に思ったけど、地図を見て納得!
そうだ、オーストリアにはイタリア北部との間に国境があるんだった!
ヨーロッパの国々や都市が閉鎖され始めたのと、UKにもコロナが拡散し始めたのを踏まえて、会社では前々から計画していた今年のヨーロッパ代理店向けトレーニングを全て延期することに決めた。
3月も第3週目にトレーニングをする予定で招待状も出していたが、早速延期のお知らせメールを予定していた参加者に送った。
先月「See you next month!]と言って別れた人たちとは結局いつ会えるか目処がつかなくなってしまった。
「オーストリアの国境が閉鎖になったて聞いたぁ?」
会社のランチタイムに同僚たちと昼食を食べながら今度はこのニュースの話になった。
すると同僚の一人が「オーストリアではパニック買いも始まったらしいよ。」
と教えてくれた。
「パニック買い?」
「そうそう!トイレットペーパーのパニック買いだってー!」
「トイレットペーパーの争奪戦で、ナイフで刺されそうになった人がいたらしいよ。」
「ひえぇ~!コロナに感染する前にトイレットペーパーの争奪戦で殺されちゃったらどうしよう!!」と言いながら皆で驚愕していた。
そういえば数日前に日本の母とスカイプで話した時、日本でもトイレットペーパーの買占めが始まったと言っていた。
普段スーパーで高く山積みになって置いてあるトイレットパーパーが1つもなかったと!
母は日ごろからセールになっている時に消耗品を買い込んでいるので、しばらくは家のストックでなんとかなるようで安心だった。
そもそも父と母の二人暮らしなので、トイレットペーパーの消費量が比較的少なくパニックする必要がない。
争奪戦が起きているようなスーパーにお年寄りが行くと思うだけで心が安まらないので、実家にトイレットペーパーの蓄えがあることに深く安堵した。
トイレットペーパーの蓄えがあることにこんなに感謝した事は生まれて初めてだった。
しかしなぜ緊急事態になると人はトイレットペーパーのパニック買いに走るのだろう?
もし国が閉鎖してお店に物がなくなるとしたら、一番に確保するものは食べ物では..?
不思議に思ってる矢先に新聞には早速心理学者の分析が載っていた。
「トイレットペーパーは高価でない割りに嵩がありパックで買うと比較的大きいので、買っておいて安心感を得られる」とか「トイレットペーパーの代替になり得るものがないから。」
「食料は何か1種類の物がなくても代わりの物があればそれで代替になるが、水に溶ける紙はトイレットペーパーしかないし、もし他の紙類をトイレに流したとしたら水道管がつまる原因になるから」等の意見がでていた。 なるほど…。
たぶん最初にパニック買いに走る人たちはこのような心理なのかもしれない。
でも、ほとんどの人はパニック買いをしている人たちを見て、
「この世からトイレットペーパーが消えてしまうかも!」
「トイレットペーパーがなくなったらナンバー2をした時にどうするのぉ~!!」
と根拠のない妄想に襲われてパニック買いに走るパターンのような気がする。
何を隠そう私もそのうちの一人だ。
日本でもオーストリアでもトイレットペーパーのパニック買いという同じ症状がでている、と言うことはいつかはここにも?と一抹の不安を覚えた。
ランチタイムのトイレットペーパーの話で頭がいっぱいになった後、自分のデスクに戻って今度は同じ部署にいる同僚とこのトイレットペーパーのパニック買いについて話をした。
「うちの奥さんはハンドソープをたくさんストックし始めたよー。」
「ええぇ!ハンドソープ?」
トイレットペーパーに気を取られていた私は目から鱗だった。
そうだ、今政府が「Wash hands more often, for 20 seconds」(頻繁に手洗いをすること。洗う際は20秒かけて)というキャンペーンをテレビや新聞の広告を通してさかんにし始めていたんだった。
「そうか、ハンドソープね。私もAmazonでオーダーしておこうかな!」
といいながら、ちらっとAmazonのウェブで「Hand soap」と検索してみた。
「ええええぇ~!!」
いつもなら、このような消耗品は安い値段でたくさん選択肢がでてくるのに、品切れになってるものや、通常なら1ポンド(約140円)で買える殺菌効果のあるハンドソープが6-8ポンドくらいで売られているものしかでてこない。中には20ポンド近くするものもあった。しかも納期4週間など!
「いったいどうしちゃったの~!?」
すでにハンドソープを蓄えているなんて、さすが同僚の奥さん、行動が早いわ!と感心してしまった。
トイレットペーパーの話で一抹の不安を覚えたばかりだったのに、その不安があっと言う間に現実味をあびてきた。
幸い、私も日本の母を見習って消耗品は安売りしている時に買っておくようにしていたのでハンドソープはあと2-3個家に予備があるはずだ。
でも油断はならない!これからずっと品切れになった時のために余分にストックしておかねば! 週末スーパーに買出しに行くときに予備を買っておこう、と心に決めた。
ところが…。
週末にスーパーに行った時には時すでに遅し!
ハンドソープ売り場の棚は6段ほどあって、いつもならいい香りのするおしゃれな容器に入ったソープをはじめ、99.9%殺菌効果のあるハンドソープなどいろんな種類のソープが陳列されているのに、どの棚もない!ない!ない!ない!ない~!
すっからかーんになった棚を見ると余計欲しくなるのが人間の心理なのだろか?
家に予備のハンドソープがあることは半分忘れて、私は「どうしてもハンドソープを探さねば!家族全員の衛生のために!」という使命感にかられてきた。
使命感にかられながらハンドソープ売り場を離れて、違う売り場に向かうと更にショックな光景が目に入ってきた。
トイレットペーパーは言うまでもなく1つもなく、いつもなら山のように積まれている卵やパスタ(あらゆる種類のパスタ)もない!
Paracetamol(パラセタモール)という解熱鎮痛剤も棚から消えていた。
コロナの症状、のどの痛みや熱が出たときに症状を緩和するために必要なので、これは皆が欲しいものだとすぐにわかった。
びっくりしたのは小麦粉も1つも残ってなかったこと。
「小麦粉も…!?」
ひょっとしてパスタが棚から消えたから家でパスタを作る人がいっぱいいるのかな…?
と疑問に思った。
カラになった小麦粉の棚を見て「先週のパンケーキデーの日に小麦粉を買っておくべきだった!」と悔やんだ。
特に毎日ケーキを焼いたりパンを捏ねたりしてるわけじゃないので、今家に残ってる小麦粉でしばらくは間に合うはずなのに、このカラになった棚を見て、「小麦粉も卵もなくなっちゃって、もうこの世も終わりかも..!」という脅迫観念にかられてきた。
なぜか私の脳裏には飢饉に見舞われたアフリカの難民の人たちが、赤十字の穀物配給を受けるためにに長蛇の列をなしている風景に自分がいる場面を想像していた。
先週末買い物に来た時には普通に何でも棚に並んでいたのに、週が変わった途端にスーパーマーケットがバトルゾーンと化してしまったように思えた。