ロックダウン6週間前 (2月10日~2月16日頃) – コロナを持ち帰った人

この週は、また新たな、そして少しショックなニュースが会社のキッチンのTVに流れていた。同僚たちとまた朝のお茶を作りながらこのニュースの話題で持ちきりになった。

 

シンガポールで開催されたコンファレンスに参加してUKに帰国した53歳のビジネスマンが、シンガポール滞在中にコロナに感染し、帰国後症状が出たため病院で隔離されているというニュースだ。

海外で感染して帰ってきたイギリス人として初のケースだった以外に何がショックだったかと言うと、この感染者の名前が公表されたこと!!

 

この週はSteve Walsh(スティーブ ウォルシュ)という名前が全国の新聞、ニュース、ワイドショーに写真付きで出回っていた。

「コロナに感染すると、こうやって全国ニュースに名前が公表されるの?!」

「まるでName and shame (名指しで恥かしめる、という意味)だね!」

「どうしよう、感染したら私の写真もどこからか流出しちゃうのかなぁ」

 

私の頭の中によぎった事は「こういう時のために映りのいい写真を撮っておかないと!」だ。

最近老化する自分の顔を見るのがあまりにもショックになって、自分の写ってる写真などもっていないし、子供たちが旅行に行った時等に撮ってくれた写真はどれも疲れきって写ってるものばかりだ。

こんな写真が全国ニュースに流れたら恥ずかしい限り…。

感染することも怖いと思っていたが、こうやって写真や名前が公表されるのも恐ろしく感じて同僚たちとお茶をすすりながらショックを鎮めようとしていた。

 

それと、もうひとつショックだったのはこのスティーブ ウォルシュ氏がシンガポールで感染しただけでなく、UKへの帰路、フランスのアルプスに立ち寄りスキーをして来て、一緒にいた11人の人たちに移っていて陽性反応がでていたということだ。

その11人の内訳は、イギリス人が5人、フランス人が5人、そして残りの1人はスペインのマヨルカ島から来ていたらしい。

それぞれの人がイギリスだけでなく、地元のフランス、そしてスペインにもコロナが拡散したことになる。

 

そしてその11人の人たちと一緒に住んでいる家族も14日間の隔離生活に入らないといけないことになった。

今思えば、この頃はまだ感染者数は両手で数えられるくらいしかでていなく、誰が誰と接触したかも追跡できる余裕があった時期だった。

 

一人の人から複数の人たちにウィルスを移したということで、このスティーブ ウォルシュ氏には「Super Spreader」というタイトルがつけられた。

訳としては「超ばらまき屋」だろうか。

「知らない間に感染していたのに、名前は広報され、こんなニックネームまでつけられて気の毒だよね..。」と同僚たちと同情していた。

 

一緒にキッチンで朝のお茶を飲んでいたイギリス人同僚の1人は奥さんと一緒に3月半ば

にオーストラリアに3週間のホリデーに行く大計画があった。

オーストラリアでワーキングホリデーをしている息子さんと合流してオーストラリアを周遊する予定で、ホリデー出発までを指折り数えていた。

毎日のように「I can’t wait! (待てないよ~!)」と連発していた。

イギリスからオーストラリアまではシンガポール経由で行くことになってたので、スティーブ ウォルシュ氏がシンガポールでコロナに感染したというニュースを見て不安になってきた様子だった。「フライト変更し方がいいかな..。」

「シンガポールで感染して、オーストラリア到着後病院に行くことになったらせっかくのホリデーが台無しだし。」と言い出した。

 

結局彼は翌週、ドバイ経由のフライトに変更したと言っていた。

「一人700ポンド(約95,000円)の追加になったけど、安心料だと思って変更したよ」

キッチンに居た同僚たちと、「そうだよね、せっかくオーストリアまで行ってホリデー楽しめなかったら困るし!」と言って大金を払ってでも変更した価値があることを納得していた。

 

ちょうどこの週、私の娘がボーイフレンドと一緒に21歳の誕生日記念にアイスランドへ行っていた。

最初はパリがアムステルダムを考えていたみたいだったが、オーロラとブルーラグーンに惹かれてアイスランドになった。

行きにくそうなところだと思っていたけれど、首都のレイキャビックにもEasy Jetという格安航空会社がロンドン郊外の空港から飛んでいて、大学生の予算内で行けたようだ。

 

日本にいた時、アイスランドと聞いたら地球の果てにあるような国に思えたけれど、格安航空会社がUKから直行便を飛ばしてくれているおかげ「地球の果て」だと思っていた所にも行きやすくなった。

私はスティーブ ウォルシュ氏のニュースを見て以来、空港に行ったり飛行機に乗ることに危機感を覚え始めていたので娘が帰ってくるまで心配だった。

感染力が強いので、少しでも接触のあった人たちは念のために潜伏期間である14日間はSelf-isolation(自己隔離)に入らないといけないということをこの時でた情報で知った。

パリやアムステルダムのような人ごみの多い都市ではなく、ひと気のなさそうなアイスランドを選んでくれたのがせめてもの救いに思えた。

 

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ひっそりと、そして冷え冷えした感じのレイキャビックの街並みの写真を娘が送ってきてくれたのを見て「ここならコロナも蔓延しそうもないわね」と夫と一緒に少し安心した。

ひと気のないところに滞在していたとは言え、空港や飛行機の中に感染者がいないとも限らない。「帰ってきてからは、しばらく家にいるように」と娘に言った。

 

この週の終わりに、UK在住の日本人の友人が10日間の日本帰省後帰ってきた。

日本はダイアモンドプリンセスをはじめ、コロナの話題でもちきりだったので、彼女が日本に行っている間「大丈夫かしら..?」と心配していた。

帰ってきて早速携帯にメッセージが届いた。

「どこかに行く度、戻るたびにてを洗ってばっかりで、手が痛くなったよー。」

「それにどこで感染するかわからないのが怖かった!」

と言っていた。

「それとUKに到着後、日本人の私をみて、バイキンを見るような目で私を見る人も!」とも。 この頃は日本の方がコロナのホットスポットとして捉えられていたので、仕方ないのかもしれない。

これからしばらく海外旅行に行きにくいかもと思い始めた。

6月に予約してあるスペイン行きはどうなることやら..。

 

この頃からUKのあちこちで、通りを歩いている在英中国人や中国からの留学生に罵倒を浴びせたり、暴行を加えたりするケースが増えたとニュースで聞いた。

ほんの一部の人たちだと思うけど、後日ニュースに出ていた統計によると1月~3月の3ヶ月間の間の中国人に対する犯罪件数は報告された件数だけで267件にも登ったようだ。

 

イギリス人からみたら日本人、中国人、韓国人はみな同じに見える。

私も街を歩いているとたまに「ニーハオ!」と声をかけられることがある。

というわけで中国人に対する人種差別が増えてきたと聞いて、私もなんだか身の危険を覚えた。

中国からコロナが発生したからと言って、通りを歩いている中国人を差別するのはまるでポイントが外れている! 

80年代にエイズが蔓延した頃、ゲイの人たちが差別の目で見られていたことをふと思い出した。