ロックダウン7週間前 (2月3日~2月9日頃) – ダイアモンドプリンセス

2月に入った途端、ニュースでは私の故郷日本が毎日のように映っていた。

それは横浜港にコロナの感染者が乗っていたクルーズ船ダイアモンド・プリンセスが停泊している模様を逐次伝えるニュースだった。

会社のランチタイムやお茶タイムではまた同僚とこのニュースをみながら「同じ隔離されるなら豪華クルーズ船がいいな」とか、

「感染してる人としてない人はちゃんと中で分けられてるのかしら。心配だわ。」とか、

「キャビンの中で隔離になってもデッキや窓がない部屋だったら刑務所みたいに違いない。海に浮く刑務所だね..。」等の会話でもちきりになった。

 

毎日のようにクルーズ船内の感染者数が上がっていくニュースを見て、コロナの感染力の怖さが伝わってきたと共に、船に閉じ込められた人たちが気の毒だった。

クルーズホリデーはヨーロッパでも引退した人や50歳以上の人たちに人気だ。

子供たちも巣立って、金銭的にも時間にも余裕のある年代の人たちだ。

きっと中にいる人たちは年齢層の高い人たちが多いに違いないし、一生に一度の思い出にクルーズホリデーに参加してる人もいるだろうに。

 

最初のうちは、クルーズ船の中の様子はあまり伝わってこなく、防護服をまとった日本の検疫チームが中に入っていく様子が日本のテレビで放映されたものが、こちらのTVでも流れていた。

そのうち除々にイギリス人の乗客たちからのビデオコールインタビューがライブでニュースに出てくるようになった。世の中ネットさえ繋がればどこからでも映像を発信できるようになったおかげで地球の裏側で起きていることもオンタイムで伝わってくるようになって、緊迫感も伝わってきた。。 

 

最初のころは50代後半の夫婦が毎日のように船の中の状況をBBCのニュースでアップデートしてくれていた。

ホリデーの期間中足りるだけの持病の薬を持って乗船していたのに、検疫期間が長引いたら薬が切れてしまってどうしよう、という心配もでてきたようだった。

普段マスクの着用が習慣になってないイギリス人も船で渡されたマスクを着用するようになったようだった。検疫が10日くらい過ぎたころだっただろうか、この夫婦のご主人が感染して病院に運ばれたニュースが流れてきて、ずっとこの夫婦のレポートを見ていた視聴者は、「どうか大事に至りませんように!」と願うばかりだった。

後日、無事回復したというニュースがでて、皆で「ああ~、よかったね!」と胸をなでおろした。

日に日に船の中の感染者が増えているのを聞いていて、感染してない人はいつ感染してもおかしくない、逃げ場のない状況に置かれているのがヒシヒシと伝わってきた。

最終的には28日間の隔離期間中、このクルーズ船内で感染した人の数は乗客・乗務員3711人中712人にもなったと聞いた。約5人に一人!

乗客の人たちはきっとクルーズホリデーに行く前までは早く船に乗るのを夢にみていただろうに、この隔離期間中は一刻も早く下船したかったに違いない!

この状況をニュースで見ていて「一生に一度でも、クルーズホリデーに行きたいと思わなくなった!」という人が私の周りにも結構でてきた。

 

実は私の夫の父(義父)と夫の妹(義妹)も5月に地中海クルーズに行く予約を入れていた。 一度クルーズに行ってみたいという義父の夢を元気なうちにかなえるため、義妹が一緒に行ってあげることにした。

義父は義母と大昔に別れてからずっと一人暮らしで、今のところ付き合っているパートナーもいない。

そこで、義妹が義父の夢をかなえるため手をあげてくれた。 

しかし、義父は元気なものの、80歳で高齢者の枠に入るし、義妹は喘息持ちで要注意のカテゴリーに入る。ダイアモンドプリンセスのニュースを見て心配になってきた。

義妹は早速キャンセルと延期の可能性を想定して旅行会社に問い合わせを入れたようだった。3月初めまでにキャンセルすればデポジット以外の金額は返ってくるようだ。

義父は少しくらいのリスクなら決行したいようだったが、用心深い義妹は少しでもリスクがあれば行かないと言っていた。

義妹はもちろん、せっかくの義父の夢をかなえてあげたい私たちは3月にはコロナも収束してくれますよに、と祈るばかりだった。